制作の実際
作品を長期保存するためには、マットの材料に良質な物を使う必要があります。多くの美術館やギャラリーでは一般にミュージアムボードと呼ばれる、綿の繊維で作られたボードや、国産のピュアマットという綿繊維とパルプ混のボードを使用しています。 いずれも無酸であるだけでなく、悪影響を与える不純物を含まない良質なボードです。
Photographic Activity Test(写真活性度試験)を略してPATと呼ばれる試験に合格した材料を選んで使うようにすれば間違いありません。この試験は国際規格 ISO 18916 で定められたもので、長時間の接触後に写真と所定の材料との間に化学的相互作用が生じる可能性を調べます。
必要な材料と道具
- ピュアマット またはミュージアムボード(表と裏の2枚)
- リネン・テープまたはフィルムプラストSH (ヒンジ用テープ)
- ピュアガード70 (コーナーの材料)
- フィルムプラスト P-90 (コーナーを留めたり、プリントを吊るす)
- 合紙 (ピュアガード等)
- 水 (リネン・テープを濡らす。 精製水が望ましい)
- マットカッター
- 定規 (プリントの採寸にはプラスティック製の物がよい)
- 直角定規、又は三角定規 (窓抜きのためのアタリをつけるときに使う)
- 重し (角が鈍いもの。 製図用のものが便利)
- ハサミ
- 鉛筆
- 消しゴム
- 布 (晒布 (さらし) が良い)
- セラミック・タン、スポンジ、刷毛など (リネン・テープの水つけ)
- バーニッシング・ボーン (ヘラ)
採寸
プリントを傷つける危険を少しでも減らすためにプラスチック製の定規を使います。 プリントに透明なシートを被せて採寸すればより安全です。イメージの直角が正確に出ているとは限らないので4辺を採寸しておいたほうがよいです。
オーバーマットの窓抜き寸法は、マットをイメージにかぶせるのであればイメージサイズより2〜3ミリ小さく、印画紙や貼り付けた台紙の余白を出すのであればその余白の分だけ大きくします。
アタリを付ける
窓抜きをするためにボードに印をつけること「アタリをつける」と呼んでいます。
アタリ位置の算出
窓を抜く位置をボードの四辺から割り出すと、ボードの直角が正確に出ていない場合は当然窓も歪んでしまいます。ボードが少々歪んでいても額に納まる程度であれば問題ありませんが、窓の歪みは余白を出す場合にかなり影響します。
以下に述べる方法で、簡単に正確なアタリを付けることができきます。
縦位置の場合
A = マットの長辺−抜き寸縦)× 0.46 あるいは任意の偏芯率
B = A+抜き寸縦
C = (マットの短辺−抜き寸横)÷2
D = C+抜き寸横
横位置の場合
A = (マットの長辺−抜き寸横)÷2
B = A+抜き寸横
C = (マット短辺−抜き寸縦)×0.46 あるいは任意の偏芯率
D = C+抜き寸縦
アタリの付け方
以下の手順で行う。
- A、B にあたる位置に印をつける。
- A の印に直角定規を合わせて、C と D をそれぞれつける。
- B の印に直角定規を合わせて、C と D をそれぞれつける。
三角定規を使う場合は、端から目盛りが有る定規と組み合わせます。このとき、ボードの左に何か直線の出ている、 あて木のようなものがあると非常に便利です。
各ポイントを線でつなぐ必要はありません。小さい+字を鉛筆で薄く書けば十分です。
窓抜き
マットカッターを使って切り口を45度に窓を抜きます。弊社でもマットカッターを販売しておりましたが、残念ながら完売し販売終了しております。弊社でも現在はコンピュータ制御の機械を使っており、手で窓抜きすることはほとんどありません。
45度に窓を抜くと表側は裏側よりも窓サイズが大きくなります。そのためアタリよりそれぞれ数ミリ長くカットします。これは刃の出し具合や、カッターの種類、切る人の癖によって異なります。刃を長く出し過ぎなければ、切り口の交差をギリギリにするよりも、少しオーバーランしたほうがきれいな角になります。
上手く抜くコツは...
- 刃を出しすぎないこと。
- カッターのレールをしっかり固定すること。
- 刃を入れるときは最後までしっかり入れること。
- 抜く途中で力をぬかないで、一定に保つこと。
- そして何より、たくさん練習すること!
窓を抜き終わったら、鉛筆で書いたアタリを消しゴムで消しておきます。アタリが付いたままプリントを装着すると、プリントの表面にマークが転写してしまうことがあるためです。マットの切り口を傷めないよう外から内に向けて消しゴムをかけます。ダスティングブラシでしっかりはらい、消しゴムのカスが残らないように気をつけてください。
ヒンジ
ヒンジには麻のテープに糊の付いた「リネンテープ」を使います。これは水で濡らして接着するガムテープです。水を使わないフィルムプラストSHでもかまいません。長辺をヒンジしたほうが、テープにかかる負担が少なくなり、強度が増します。慣習として縦使いならば表から見て左側を、横使いならば天をヒンジします。テープの長さはマットより少し短くしておいたほうがほうが作業効率がよいと思います。
水を入れたセラミック・タンのローラーを少し廻してその表面を濡らし、親指でローラーにテープを押しあてた状態でテープを引っ張ります。セラミックタンがない場合は清潔なスポンジや刷毛をつかってテープを濡らします。
テープの対角をつまみ、たるみの無いように貼りつけ、布で余分な水分を吸いとりながら、しっかりと擦りつけます。 そしてマットを閉じ、背のズレがないように合わせて折り目をしっかりつけます。 もし裏のボードがオーバーマットよりはみ出ていたら、この段階でオーバーマットに合わせてカットしておきます。
プリントの装着
コーナー留め
最も基本的なプリントの装着方法はコーナー留めです。 コーナー留めはプリントを直接接着しないので、最もプリントにダメージを与える危険が少ない装着方法です。コーナーは作品に影響を与えないピュアガードなどの上質な紙を短冊に切り、それを折って作ります。
プリントのサイズや、余白の量によってコーナーの大きさを使い分けます。 大きいコーナーはプリントが外れる心配は少なくなりますが、同時に外しづらくもなります。コーナーをカットするとき、足の部分を少し残すようにして下さい。
マットにプリントを挿んで位置を合わせたら、プリントが動かないように重しをのせます。重しの下には合紙を敷くようにしてください。そしてマットを開き、コーナーをP-90で留め、バーニッシング・ボーン(へら)でテープをしっかり擦ります。
もしマットに対しプリントサイズが大きくて、テープを貼るだけの余地が無い場合は、コーナーの足にテープを貼り、プリントの裏でボードに接着するようにすればよいでしょう。
吊るし留め(ヒンジ)
コシが無いプリントや余白のないプリントは、テープでぶら下げるように吊るします。この留め方は上手にやればプリント自身の重さでかなり平ら額装できます。レジン・コートやフィルム・ベースのプリントにも効果的です。
ただし、少ないとはいえ、直接プリントを接着することには変わりありません。 テープで吊るすか、コーナーで留めるかの判断は慎重にするべきでしょう。コーナー留めと同様に位置を決めて、重しを乗せたら、P-90 をプリントの裏側から半分程度はみ出すように貼りつけます。 そして、プリントの端からはみ出ているテープを、丁度 T 字になるように、表からまた P-90 でボードに貼りつけます。下の2箇所の角は暴れないように、ゆるめにコーナー留めします。