2012年春に開業する新たなシンボル、東京 スカイツリー。
2年半の歳月をかけてスカイツリーの成長を記録するとともに、ツリーを媒介にして、新旧のものが混じり合った周辺の有機的な街並み、そして人々の営みを絶妙な距離感と光彩で写し出す。
「非常階段東京」(日本写真協会新人賞受賞作)で、大都市の幻惑的な魅力を見事に表出させた佐藤信太郎が撮り下ろす渾身の作品集。
ここに収められた写真では、一つの風景が複数のショットによって捉えられ、再び一枚につなぎ合わせられることで、すべての細部に焦点があった映像を眼前に表す。風景の細部を捉えたひとつひとつの写真たちは、縫い合わされ、一枚のパンフォーカス画面となってわたしたちの前に現れる。思いがけない場所に現れた塔、そしてそこからうかがい知ることのできない微細な街の表情を見れば、写真家がいかに丹念に歩く人かがわかる。そこでは街が、鳥瞰に対する警句のように光っている。
細馬宏通
東京では江戸からの歴史、大地震の記憶、戦争の記憶など様々な歴史、記憶がその土地に固有の雰囲気を与えている。「非常階段東京」はその特有の雰囲気(ゲニウス・ロキ、地霊)に反応してそれをとらえようとしたものだと言えるが、今回もスカイツリーを介して、東京の歴史性から生まれる固有の雰囲気、地霊のようなものを感じ取り、写真に落とし込んでいった様に思う。戦火を奇跡的に逃れた京島界隈の歴史ある独特の町並みの向こうに最新のスカイツリーが見えると、様々な歴史の層が入り混じる東京の厚みを強く感じる。
スカイツリーは土地の歴史の中に現れ、その場所の記憶に加わることで、これからも東京を歩き、撮り続ける私を刺激してくれるに違いない。
佐藤信太郎
寄稿: 細馬宏通(『浅草十二階』著者)
アートディレクション: 中島雄太
版形: B4変形 104 頁 並製
著者サイン入り
装丁:ペーパーバック
出版:青幻舎, 2011年